心が淀むとき、僕はバイクに乗る。
今日は、ほぼ字ばっかりの記事です。
心の淀み
和休の妻は、パン屋さんで働いている。彼女は、独身時代にお料理教室でパンの作り方を学び、パン作りの基本は身についているのだ。
和休はカレンダー通りの平日勤務に対して、妻は週末をメインに働く。必然的に、週末は和休が留守番し、男の子3人の相手をする。
男3兄弟ともなると、なかなか大変だ。
夏休みも終盤に入り、工作や読書感想文などの大物を仕上げていかなければならない。ところが、男の子の常で、やりだすまでに非常~~~~~に時間を要する。
それに、最初に手を付けたものを片付けずに次のことをやりだすもんだから、机や子供部屋は散らかり放題。和休は、小学校の男の子はそんなもんだと思うし、少々ガチャガチャしている環境の方が、男の子は集中しやすいともいわれる。
でも、度を越した散らかりように、妻は耐えられない。
仕方がないので、妻の血圧が上がらない程度に片付けをさせるのだが、今日ばかりはやらなきゃならないことがあれこれある。日々のドリル系の宿題、工作、感想文。さらに、手つかずの宿題がまだ残っていたとの告白。
子供たちも、今日はあまりやる気がでないようで、まったく事が進まない。
募るイライラ。
妻が帰ってくる頃には、大分気持ちが沈んでいた。
見かねた妻が「バイク乗ってきたら?」といってくれた。女の勘は、やはりするどい。
悪いな、と思いながらも、バンディットのエンジンをかけたのはいつだったかいな、と考えている自分がいる。
もう1ヶ月近くバイクに乗っていない。ちょいと甘えさせてもらって、数時間の散歩に出かけることにしよう。
自宅から片道1時間程度で行けるところが、今日の目的地だ。
息抜きできる目的地を
和休は、あまり自宅近くの定番ルートを持っていない。今から出発するとなると、自宅をでるのは19時になるだろう。この時間からだと、ポートアイランドだろうか。
ポートアイランドとは、神戸市の沖合に作られた人工島で、第2期工事でそのさらに沖合に、神戸空港が建設された。
そうだ、今日は三脚とカメラ(オリンパス OM-D)を持っていこう。気晴らしに夜景でも撮ろう。
ポートアイランドには「北公園」という公園があり、神戸の市街地とポートアイランドを結ぶ神戸大橋の撮影ができるポイントがある。
でも、やめた。暑そうだ。クローゼットから、今年の夏一回も使っていないフルメッシュのジャケットを引っ張り出す気分じゃない。
どうせ夜景を撮影するなら、1,000万ドルの夜景として名高い、六甲山からの夜景なんてどうだ。
神戸を象徴する山々である六甲山は、明治の昔に神戸にやってきた外国人によって、避暑地として開発された経緯がある。市街地と山頂では、大体5℃から7℃ほど涼しいといわれている。
それに、「Bandit」とは「山賊」の意味だ。山へ行かなくてどうする。そうだよね、そうしよう。
決まりだ。
19時ちょうど。バンディットのエンジンを始動した。
最寄りのガソリンスタンドで、満タンにし、空気圧をチェックする。ここのスタンドのエアポンプは、あらかじめセットした空気圧になるように充填されるタイプではなく、空気圧計が付いていて、空気を入れる前のタイヤの状態が分かる。
バイクのタイヤは、四輪のタイヤと比べてタイヤ内の空気量は少ない。季節の変わり目などのわずかな気温の変化で、空気圧は簡単に増減する。
そのほか、スローパンクチャーしていないかなど、タイヤの健康状態を知るためにも、空気を充填する前の空気圧を知りたいのだ。
準備は整った。
ワインディング
神戸市北区に鈴蘭台という街がある。ここから六甲山の山の中を走る道になる。今日は六甲山を西端から登っていき、小部峠から県道16号線に入って六甲ケーブルの六甲山上駅を目指して走ろう。
国道428号線「有馬街道」小部峠交差点を右折して、県道に入った。森林植物園を過ぎると山の中だ。
空気が涼しく、いや、ときには冷たくなってきた。
右、左と走り抜ける。
今日は、流すように走りたい。
ワインディングには、その山特有のリズムがあるように思う。和休は18歳で自動車運転免許を取得して、練習がてら六甲山にはよく訪れた。
この道は、六甲山の尾根伝いを通っているので、あまり高低差がない。
バンディット1250Sのぶっといトルクなら、ほぼ3速に入れっぱなしのアクセルコントロールだけで、体に染みついている、ここのリズムに乗れるのだ。
カーブミラーの角度で、コーナーを深さを予測する。ぶっ飛ばしているわけじゃないから、コーナー手前の減速は、エンジンブレーキでほぼ終わる。バンディットがコーナー出口を向いたら、じわっとアクセルオン。大排気量車特有のトルクに任せて吹けあがる、あの独特な高揚感。
これを味わいに来た。
淀んでいた気持ちが、ほぐれてくる。
街灯のない道を、バンディットのライトが明るく照らす。
和休のバンディットは、ロービームにHIDが装着されている。実は縦2灯式で、上がロービーム、下がハイビームを担当している。
ロービームは、一言でいうと明るい。広がりもいいし、照射範囲の明るさに申し分ない。
対向車がいなくなってハイビームに切り替えると、ハイとローが同時点灯するので、手前からかなり先まで見通すことができる。
一つ不満を言えば、ハイビームよりロービームが明るいので、ハイビームを点灯したときにあまり違いが分からないことだ。ロービームの照射範囲が、軽く一回り大きくなったような程度だ。
誤解を招かないように補足すると、車検に合格する程度の光量と光軸はしっかり合わせてあるし、道の線形を示すデリニエーター(反射板)は十分遠くまで光ることから、ハイビーム単体での性能は問題ないと思う。ロービームが明るすぎるんだろう。
香しい香りが漂ってきたら、六甲山牧場だ。ここを過ぎると、企業の保養所など山上の施設がぼちぼちと現れる。もうすぐ、今日の目的地だ。
天覧台で撮影を
20時頃、六甲山上駅に到着。この駅舎は1937年(昭和7年)の開業当時から変わらない。古き良きデザインがそこかしこに残る。
駅には、「六甲天覧台」という展望台がある。1981年(昭和56年)に昭和天皇陛下がここに立ち寄り、景色を眺めたという。
見通しが良ければ、神戸だけでなく、大阪や大阪湾をはさんで関西空港や和歌山あたりまでを一望できる、素晴らしいスポットだ。
夜景を写真に収めれば、1,000万ドルの夜景をブログで披露できるかもネ。
駐車場にバンディットを置き、三脚とカメラと下心をもって天覧台へ向かう。
天覧台にはカフェがあって、特等席はカフェの中だ。カフェの外の展望台にも、切れ目なく人が並んでいて、ライダーの格好をしてカメラを持った和休は、ちょっと場違いな感じがした。
カフェの営業が終わり、下りのケーブルカーの発車案内が流れると、展望台は少し空いた。
和休も展望台の端まで行ってみる。
どうだろう。
木が生い茂っていて、視界が狭い。正面には六甲アイランドという埋立地があって、その右の方にはポートアイランドがあるのだが、ポートアイランド方面は木が生い茂っていてダメだ。
左は、というとこれも気にさえぎられて西宮あたりから東が見えない。大阪府の南港あたりから対岸は見えるのだが、思っていた景色と違う。
対岸まで見えるほど見通しは良いのだが、空気はすこしモヤモヤしていて、肉眼で見てもすっきりした感じがない。
せっかくカメラと三脚を持ってきたというのに、空振りだ。やっぱり夜景を撮るなら冬かな。
バンディットに跨り、自宅へと、もと来た道を戻る。
バイクに乗れたことで、気持ちは少しすっきりしたが、満足感はない。
今日は空振りだ。